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Kidnapped 魔城脱走記

アメリカ映画 (1938)

グラスゴーの北西約100キロにあるアッピン(Appin)近郊の森で起きた殺人事件(1752年5月14日)に端を発した冤罪→絞首刑→“そのまま18ヶ月間鎖とロープで縛られたまま野ざらしで骸骨になるまで見せしめで放置”という、という当時のスコットランドにおけるイングランド政府とジャコバイト〔1688年イングランドで起こった名誉革命の反革命勢力〕との抗争を、1886年になって スコットランドのロバート・ルイス・スティーヴンソン(Robert Louis Stevenson)が小説化したもの。絞首刑にされたのは、アッピンのスチュワート氏族の族長ジェームズ・ステュアート(James Stewart of the Glen)。殺害されたのは、コリン・ロイ・キャンベル(Colin Roy Campbell)、通称「赤い狐」と呼ばれた政府の徴税吏で、スチュワート氏族の勢力を奪うことが主目的だった男。殺害の数週間前にコリン・ロイ・キャンベルを脅威したアラン・ブレック・スチュワート(Alan Breck Stewart、ジェームズ・ステュアートの異母弟)は、第一容疑者にされたが、直後にフランスに逃亡、代わりにジェームズ・ステュアートが逮捕された。裁判は キャンベル氏族の族長の第4代アーガイル(Argyll)公爵ジョン・キャンベル(John Campbell)が裁判長を務め、15人の陪審員のうち11人がキャンベル氏族で占められ、ジェームズ・ステュアートは絞首刑となった。右の写真は、残酷な処刑現場に建てられた印象的な記念碑。真犯人については、過去にも諸説があり、最近では、サウスカロライナ大学のLee Holcombe教授の研究(2004)〔真犯人はドナルド・スチュワート(Donald Stewart)〕、ストラスクライド大学のAllan MacInnes教授の研究(2016)〔真犯人はムンゴ・キャンベル(Mungo Campbell)〕と 2つの全く逆〔スチュワート氏族とキャンベル氏族〕の結論を出している。ロバート・ルイス・スティーヴンソンの『Kidnapped』の冒頭で スティーヴンソン夫人が書いた序文には、夫は、最初、ジェームズ・ステュアートの裁判について書くつもりだったが、興味はアラン・ブレック・スチュワートに移ったとある。しかし、実際に『Kidnapped』を読んでみると、主役は17歳の架空の若者デイヴィッド・バルフォー(David Balfour)で、第1章から最後の第30章まで出ずっぱり。アランは、フランスから隠密裏にスコットランドに入国しようとして、最後のボートが霧の中でデイヴィッドが監禁された船とぶつかった時に登場し、そのままデイヴィッドと組んで船長と対峙し、最後は、浅瀬に突っ込んだ衝撃でデイヴィッドが海に落ち、別れ別れになるまでと(第9~13章)、アッピン殺人事件の現場に居合わせたデイヴィッドが、殺人幇助の罪を着せられ、偶然出会ったアランと一緒に長い逃避行〔飽き飽きさせられる〕に入る場面(第17~25章)、そして、デイヴィッドが弁護士と会い、アランの助けを借りて、叔父から奪われた財産を取り戻す際(第26~30章)に登場する。しかし、ジェームズ・ステュアートは逃避行の最初に少しだけ顔を見せるだけで、後は、監獄に入っているという記述はあるが、裁判の場面は皆無。

『Kidnapped』は、この1938年版以外にも、1917年、1948年、1959年(『海賊船』)、1971年、1978年(TV)、1995年(TV)、2005年(TV)に映画化されている。私は、どれ1つとして観たことがないが、1938年版は、原作と大きくかけ離れている。原作では、①デイヴィッドの出立→②叔父の館での危機一髪→③帆船の船長に拉致→④アランの乗船→⑤アランと組んで船長と対峙→⑥浅瀬で転落→⑦彷徨して本土へ→⑧コリン・ロイ・キャンベルの暗殺→⑨アランに連れられての長い逃避行→⑩弁護士とアランの共同作戦による叔父の粉砕、という流れになっているが、映画では、❶懸賞金をかけられたアラン→❷デイヴィッドの出立→❸コリン・ロイ・キャンベルの暗殺(場所が違う)→❹暗殺者の目撃者としてのデイヴィッドの拉致→❺アランと暗殺者の婚約者ジーンとの出会い→❻叔父の館での危機一髪(場所が違う)→❼帆船の船長に拉致(奴隷として売るため)→❽アランとジーンの乗船→❾アランと組んで船長と対峙→❿3人でボートをつかって脱出→⓫弁護士とアランの共同作戦による叔父の粉砕→⓬叔父と帆船の船長が結託し、アランを賞金目当てで通報→⓭アランの裁判→⓮デイヴィッドの裁判長への懇願→⓯絞首刑から国外追放への減刑→⓰デイヴィッドに見送られてのアランとジーンの船出、と全く違った内容になっている(異なる部分が青字)。その理由は、オスカー俳優のWarner Baxterとフレディ・バーソロミューを主役の2枚看板としたため。そのため、原作にないジーンという女性を重要な脇役として登場させ、ある意味、“長ったらしい逃避行” をすべてカットし、すっきりさせた。ただ、一番の問題点は、原作が避けて通ったアッピン殺人事件の裁判の被告を、ジェームズ・ステュアートからアランに変えて映像化したこと。ある意味、“歴史の歪曲” だ。問題はさらに続き、⓯で書いたようにアラン〔と言うよりは、絞首刑にされた殺人犯〕が死刑をまぬがれること。実際には、最初に書いたように、18ヶ月間鎖とロープで縛られたまま野ざらしで骸骨になるまで見せしめで放置されたというのに。これは、もっとひどい “歴史の歪曲” だ。ハリウッド映画だからこそできた “大団円” だとも言える。もう1つの、ある意味では最大の違いは、主人公のデイヴィッドの年齢。原作では17歳の青年。映画では13歳の少年。受けるイメージは全く異なる(右の写真は、エディンバラにあるデイヴィッド(左)とアラン(右)の像で 共に大人だ)。なお、原作を読みたい方は、https://www.gutenberg.org/ で公開されている。使用されている挿絵の一部を、以下のあらすじでも、比較のために使わせて頂いた。なお、DVDには字幕は入っていない。ネット上で唯一参照できるのはポルトガル語の字幕だが、これがメチャメチャ。例えば、クイーンズフェリーの港でエベニーザがキャビン・ボーイに、「ホーシーズン船長は、中にいるか?」と訊くと、「Nariz japonês e bicho de pé.」と答える。これの英訳は「Japanese nose and foot bug.」。「え、日本人の鼻?」とびっくり。この部分のヒヤリングは、「Definitely knows in a jigger of rum.」。「Definitely knows」を「Japanese nose」と聞き間違えている。他の部分も、しゃべる相手にもよるが、正しい部分を探すのが困難なほど。

フレディ・バーソロミュー(Freddie Bartholomew)の少年時代最後の映画。1924年3月28日生まれで、映画の製作は1938.1.3~3月中旬と書いてあったので、13歳の時の撮影。詳しい解説は『Little Lord Fauntleroy(小公子)』を参照されたい。

あらすじ

1752年の、ある夜の丘の上。アラン・ブレックが、集まった仲間達に向かって奮起を促している(1枚目の写真)。「スコットランド人よ! 我らは高地氏族の偉大な国を失った。イングランドに占領されてしまった。奴らは、我々から鉄砲を奪い、何も残さなかった! だが、敢えて言いたい。たとい死すとも戦おうではないか! 我々にとって、これが最後の機会だ。いざ、エディンバラへ!」〔実際には、アラン・ブレックにはこんな指導力はないし、そもそも、1745年の “最後” のジャコバイト蜂起でチャールズ・エドワード・ステュアート(イングランド・スコットランドの王位継承者)が破れ、カトリック王権の復活は潰えてしまっている〕。一方、エディンバラでは、大勢の反イングランド市民が市庁舎(?)の前に不穏に集合し、中には、石で窓を割る者もいる。アーガイル公爵は、「彼らは、何が最良なのか分かっとらん。避け得ないことも分かっとらん」と、事ここに至っての反乱の兆しに不満を口にする。それに対し、大佐は 「この騒乱に責任がある人物は唯一人、アラン・ブレックです。彼をスコットランドから追放しない限り、平和は訪れません」と言い(2枚目の写真)、アラン・ブレックの逮捕状にサインするよう迫る。その結果、アラン・ブレックの逮捕に協力した者にたいする500ポンドの報奨金の紙が各所に貼られる(3枚目の写真)〔これは、とてつもない金額で、https://www.nationalarchives.gov.uk/currency-converter によれば、当時の500ポンドは、2017年の58335ポンド≒890万円に相当する/なお、原作では100ポンド(180万円)〕
  
  
  

ここで、場面は、ドミニク・キャンベル男子学校に変わる。教室は1つだけ、教師も1人だけ。この教師は、イングランド派で、授業の最後に、英国王に対する反乱者としてアラン・ブレックの名を挙げ、「諸君は、私に忠誠の誓いを立てた。スコットランドの自由だ。誓いに忠実たらんとすれば、アラン・ブレックとその仲間は、君たちの敵だ」と教える(1枚目の写真)。休憩時間中、もしくは、翌日の始業前、デイヴィッドが学校の門まで行くと、すぐ外の大木の幹に張られたアラン・ブレックの報奨金の紙に、3人の地元の子供達が泥を投げている。デイヴィッドは、「やめろ!」と注意する。「何だと、この生徒野郎」。「勅令に泥を投げてるのをイギリス兵に見つかったら、罰せられるぞ。アラン・ブレックは反乱者だ」(2枚目の写真)。この言葉に対し、相手は、投げようと手に持っていた泥の塊をデイヴィッドの顔になすりつける。怒ったデイヴィッドは、相手の顔を泥の中に突っ込む。その時、始業のベルが鳴る(3枚目の写真)。
  
  
  

教師は、最後尾に並んでいたデイヴィッドを、教室の中に入れず、すぐ反対側にある自分の家に連れて行く。そして、「可哀想にな」と言い、顔の泥を洗って来させる。顔を拭ったデイヴィッドが戻ってくると、1通の手紙を出し、「今日、この手紙がニューファンドランド〔カナダの東海岸に位置する島〕から届いた」。「父さんですね」。「違うんだ。お父さんは亡くなられた」。「悲しい知らせです」(1枚目の写真)。「だが、それほど悲しくはないだろ? いいかい、君は お父さんを知らないんだから」。「はい、知りません」。「どう死んだのですか?」。教師は、デイヴィッドに自分で読ませるよう、手紙を渡す(2枚目の写真)。そして、さらに、「君は、ここを発たねばならん」と言い出す。「君のお父さんが、まだ小さかった君をここに預けた時、これを渡された」と言い、もう1通の 古びた封筒を見せる。「お父さんが、ここに戻ってみえる前に、もし何かあったら、私は、君を伯父さんの所に送り、これを渡すよう言付(ことづ)かった」。封筒には、「エベニーザ・バルフォー」と書かれてある(3枚目の写真)。エディンバラに行きたくないと渋るデイヴィッドに、教師の妻は、「2日のハイキングよ」と慰める。教師は、「君が思っているほど悪い話ではない。伯父さんはお金持ちで、お城に住んでおられる。もう少し話しておこう。つまり、よく分からない謎がある。君のお父さんが貧困に苦しみ亡くなったのに対し、お兄さんは金持ちだ。だが、私が詮索すべきことではない。君が自分で見つければよい」(4枚目の写真)。親切な教師は、暖炉の前で、2人して膝を付き、デイヴィッドのために祈る。そして、デイヴィッドは、奥さんが用意した徒歩の旅用の簡単な荷物を持ち、生まれて初めての旅に出る。
  
  
  
  

5月14日。デイヴィッドが、ある村に辿り着いた時(1枚目の写真)、早馬に乗った男が村の中心に到着するや否や、鐘を鳴らして村人を集める。それは、王の徴税吏がすぐにやって来るという悪い知らせだった。村人は大切な物を取られないよう、家に向かって走るが、すぐに 10名ほどの部下を従え、四頭立ての馬車に乗った徴税吏が村に入ってくる。馬車から降り立ったのは、コリン・ロイ・キャンベル(3枚目の写真)。コリンは、村人たちが隠しているに違いないお金を、徹底的に家宅捜査することを部下に命じる。
  
  
  

コリンの馬車が到着したには、村の中心で、そこには村の酒場がある。その裏手から 酒場に入って来たのが、何と、500ポンドの報奨金がかけられたアラン・ブレック本人。アランは手下3人を連れて、酒場の窓から外の様子を窺う(1枚目の写真)。アランは、1人の男に、「ジェイミー、俺の合図を待て」と命じ、4人一緒に店の裏から出て行く。ジェイミーは馬に跨ると、村の広場が見える民家の石塀の所で馬を降り、銃でコリンに狙いをつける。アランは、それを見て、何もするなと手を振るが、その意味を誤解したのか、先走ったのか、ジェイミーはコリン目がけて発砲する(2枚目の写真)〔解説に書いたように、実際は、森の中〕。コリンは胸を撃たれて死亡する。その場にいたデイヴィッドが音のした方を見ると、ジェイミーが目に入る(3枚目の写真)。ジェイミーは、そのまま馬に乗って逃亡する。
  
  
  

デイヴィッドは、射撃の直前、聖職者に対するコリンの無理難題に口を出して “暗殺から気を逸らした” 少年として疑われ〔ここは、原作と同じ〕、馬の背後に隠れる(1枚目の写真)。しかし、その後、逆に “ジェイミーの目撃証人” として、アランに捕まり(2枚目の写真)、アランの馬に乗せられて拉致される(3枚目の写真、矢印)。森の中に逃げ込んだアランは、部下に、「この子から目を放すな。逃がすんじゃないぞ」と命じて、隠れ家に入って行く。
  
  
  

アランが最初にしたことは、真っ直ぐジェイミーの前まで歩いて行き、「このバカ者が。流血は避けろと言ったのに!」と叱ること。これに対し ジェイミーは、「“赤い狐” が勝手に俺の目線を横切ったんだ。さもなければ、撃つ気はなかった」と、罪の意識は全くない。アランは、この愚かな若者に対し、「アーガイル公爵が首吊りができると喜ぶぞ」と、現実を強調する。「でも、証拠がない。誰にも見られてない」。「見てた奴がいるんだ」。「誰?」。「少年だ」。そう言うと、デイヴィッドを中に入らせる。「名前は?」。「デイヴィッド・バルフォー」(1枚目の写真)。「一緒に来い。男たちを見ろ。見たことがある奴はいるか?」。これに対し、デイヴィッドは、「あんたたちは、全員 反逆者だ」と、教師に教えられた言葉をそのままぶつける(2枚目の写真)。そして、「誰がやったか知ってるぞ。そいつだ!」と、ジェイミーを指す。「それに、あんたが誰かも知ってる。アラン・ブレック、無法者だ」。アランは、どこでそんな話を聞いたのかデイヴィッドに尋ねる。デイヴィッドは、学校の教師から教わったと話す。アランは、イギリスの国王がスコットランド人から盗んでいるのだと話すが、デイヴィッドは、「僕らの王様だ」と一歩も譲らない。「スコットランド人として生まれたことを誇りに思わんのか?」。「反逆者である限り、はらわたを冷たい刃が貫く」。血気にはやるだけの愚かなジェイミーは 「こいつ、殺しちまおう」と言い出すが、アランは 「子供は殺さん」とたしなめる(3枚目の写真)。「俺より こいつを選ぶのか?」。「道は一つしかない。お前をグラスゴーまで連れて行き、最初の船でアメリカに送り出す」。ジェイミーは、自分のしたことを棚に上げ、激しく反対する。最大の理由は、婚約者のジニーがいるから。そこで、アランは、ジニーをグラスゴーまで連れて行くことで、ジェイミーを納得させる。
  
  
  

アランとデイヴィッドは2人だけになる〔原作での後半の長ったらしい逃避行を、短いシーンで再現したものとも解釈できる〕。アランは、「これから、どこに行く気だ?」とデイヴィッドに尋ねる。「エディンバラ」。アランは 「(途中まで)一緒に行くしかないから、順法精神たっぷりの喚き散らしは なしだぞ」と言い、森の中で一夜を過ごすことに。デイヴィッドに枝を集めさせた焚火で、“どうやって射止かは不明な鳥” を丸焼きにし、2人で仲良く等分して食べる(1枚目の写真)。その中で、アランは、ジェイミーの婚約者ジニーの家には 明日の昼に着くと話す。「そんなに早く?」。「早過ぎるか?」。「馬に乗るの好きだし、キャンプも楽しいから。あなたと別れるのが残念だな。僕たち、対極の関係にあるとは思えないね、ブレックさん」(2枚目の写真)「あなたの生き方は、とっても高貴だから」。「君のような良い子に誤解させたとしたら、誠に遺憾だな」。「意見が分かれるとこだね。僕たち友達みたいだけど、キャンベル先生は、絶対認めないだろうな」。アランは、キャンベル氏族〔射殺されたコリン・ロイ・キャンベルも、アーガイル公爵ジョン・キャンベルも、反スコットランドは全員キャンベル〕のことを、「奴らは全員腰抜け〔yellow bellies〕だ」と罵り、それを聞いたデイヴィッドは好きな先生を擁護する。「キャンベルは、法に従う腰抜けだ」(3枚目の写真)。この言葉に、デイヴィッドは強く反論し、デイヴィッドはアランから離れて食べることにする。
  
  
  

翌日、2人がジニーの家の前で待っていると、鉄砲を担いだ父親とジニーと弟が帰って来て、同行した犬が2人を見て吠える。アランは、「婚約者を遠くにやったなんて、話すムードじゃないな」とデイヴィッドに囁く(1枚目の写真)。「優しそうな女(ひと)だよ」。しかし、それは杞憂で、アランが名乗ると、父親は “偉大なアラン・ブレック” のお越しということで、大歓迎で家の中に招き入れる(2枚目の写真)。アランは、すぐにジェイミーが徴税史を殺したことを伝え、アメリカに送ることにしたと伝える。そして、自分が来たのは、ジニーをグラスゴーまで連れて行くためだと話す。父親は、娘の結婚に同意したことに若干躊躇するが(3枚目の写真)、最終的には娘の決断に委ね、ジニーはアランと一緒にグラスゴーに行く途を選ぶ。
  
  
  

3人は、ジニーの父親から借りた1頭立ての荷馬車に乗ってグラスゴーに向かう。ジニーは、スコットランド民謡『The Bonnie Banks o' Loch Lomond(ロッホ・ローモンド)』を歌い始める。「♪そこには美しき岸辺があり、そこには美しき丘が広がる。ローモンド湖に太陽の光輝く、過ぎ去りし陽気な日々。美しき岸辺、美しき丘、ローモンド湖」。ここから3人で合唱。「♪君は高い道を行き、僕は低い道を行く。悲哀を胸に、再び会う日まで。美しき岸辺、美しき丘、ローモンド湖」。歌い終わって3人の絆が深まった時、道の向こうから3人の騎馬のイギリス兵がやってくるのが見える。それを見たデイヴィッドは、2人に歌い続けるよう促す〔この民謡の起源はジャコバイト兵の悲哀を歌ったものとする説が有力だとされるが、もしそうなら、このタイミングで歌うのは疑いを招く可能性が高いのだが…〕。イギリス兵に名前を訊かれたアランは、「ケネス・マッケンジー。こっちは、俺の妻」と答える(1枚目の写真)。「その子は?」。「デイヴィッド・マッケンジー」。「息子のデイヴィッドだ」。「息子にしては大き過ぎないか?」。ジニーは、「褒めていただいてどうも」と、疑問を上手にはぐらかす。兵士が、「我々は反逆者アラン・ブレックを捜しておる」と言うと、アランは、おどけたように、「俺を連行するのかね?」と笑う。兵は、アランが何か情報を知っているのではと勘違いし、「教えてくれれば500ポンド。山分けだ」と言う。「500ポンド! なんなら俺が彼になりましょうか?」。これを聞いた兵士達は、呆れて去って行く。アランは、デイヴィッドが密告しなかったことに、「こんな良い子は初めてだ。とても誠実だ」と感謝する(2枚目の写真)。その後しばらく馬車を進ませ、グラスゴーとの分かれ道まで来ると、デイヴィッドは馬車を降りる(3枚目の写真)。デイヴィッドは、別れるに当たり、「マッケンジー夫妻の家族の一員になれてとても嬉しかったです」と冗談を言う。
  
  
  

このあと、映画は、アランとジニーのホテルでの危機一髪を描くが、デイヴィッドとは無関係なのでカット。次の場面で、デイヴィッドは 夜になってようやく “伯父” の城の近くにやって来る。辺りは大きな岩が散乱する荒れ地(1枚目の写真)。岩の端まで来た時、デイヴィッドは 穴を掘っている2人の男女を見つける(2枚目の写真)。デイヴィッドが、バルフォー城への道を尋ねると、老人が 「あっちだ」と指差す。しかし、老婆は 「これで場所が分かったじゃろ。あそこには近寄るんじゃない」と、制止する(3枚目の写真)。「でも、僕、行かなくちゃ」。「血が場所を作り、血が建設を妨げたんじゃ。この辺りの人々は、彼と彼の家には呪いがかかっとると言うとる」。「お前は、誰にも会えんぞ」。「会えるとも。僕の伯父さんだ」。
  
  
  

真っ暗な中を、デイヴィッドは城に向かって歩いて行く(1枚目の写真、矢印、空が明るいのは、雷が光ったため)。デイヴィッドは大きな扉に付いた金属製のノッカーを叩く。応答がないので、何度も叩く(2枚目の写真、雷光)。すると、扉の片側の一部が中から開き、老人が顔を見せ、「失せろ!」と命じる。「エベニーザ・バルフォーさん宛の手紙を持って来たんだ」。「手紙? 幾らだ?」。「伯父さんに届けに来たんだよ」。「伯父さん?」(3枚目の写真、雷光がないので、左側のデイヴィッドがほとんど見えない)。
  
  
  

相手が甥と分かれば入れない訳にはいかない。エベニーザは扉を開けて、デイヴィッドを中に入れる。エベニーザは、「誰の息子か言わなくてもいいぞ。アレキサンダーそっくりだ」と言う(1枚目の写真)。「僕、デイヴィッド」。「よく来た、デイヴィッド」。「ドミニク・キャンベル先生が、この手紙を渡しなさいって」。「なら、お父さんは亡くなったんだな?」。「はい」。「これが何だか 知っとるのか?」(2枚目の写真)。「自分で見てよ。封印は破られてないでしょ」。「じゃあ、夕食にしようか」。「嬉しいな。お腹ぺこぺこだから」。玄関にやって来たエベニーザが蝋燭を持っていたことから分かるように、城の中は真っ暗。シャンデリアがあったにせよ、もったいないので灯されていない。デイヴィッドが連れて来られた食堂も、明かりは、暖炉の火と、エベニーザの蝋燭だけ。「こんな広い場所で、伯父さんは、料理も何もかも一人でするの?」。「もし、お前さんが来ることが分かっとったら、もう少し多目に粥を作っといたんだが」(3枚目の写真)。
  
  
  

ここから、エベニーザの “どケチ” ぶりがよく分かるシーンが続く。鍋に入れたポリッジ〔水または牛乳でオーツ麦を煮込んだ粥状の物〕の4分の1をデイヴィッドの器に入れ(1枚目の写真、点線より下の部分)、「よく お食べ」と言ってデイヴィッドの前に置く。おかずは何もない。夕食は、僅かな粥だけ。飲み物はビール。自分の金属のコップからデイヴィッドのコップに注ぎ、入れ過ぎると、適量になるよう、慎重に元に戻す。ポリッジを一口食べたデイヴィッドは、あまりの不味さに顔をしかめる。「手紙を読まないの、伯父さん?」。そう言われて、エベニーザは手紙を取り出し、自分一人で読み、内容は教えない(2枚目の写真)。デイヴィッドは、今度はビールを飲み、これも、あまりのひどさに呆れて口を拭う。「僕のこと、何か書いてあった?」。「何年も前に書かれた ただの手紙だ」。「それだけ?」。「何だと? 他に何を言う必要がある?」。寝るまでの時間、デイヴィッドは暖炉の前で何とか温まろうとするが、火が小さくて寒くてたまらない(3枚目の写真)。そこで、横の箱から薪を取り出して追加しようとすると、「2シリング〔1800円〕を捨てる気か。節約するんだ」と文句を言われる。
  
  
  

何もすることがないデイヴィッドは、テーブルの上に置いてあった埃まみれの本を取り上げると、暖炉の火の明かりで表紙の裏を見て見る(1枚目の写真、矢印)。そこには、「エベニーザ・バルフォーの15歳の誕生日に、兄より。アレキサンダー」と書かれていた(2枚目の写真)。これは、デイヴィッドにとって大きなショックだった。エベニーザは伯父ではなく叔父だった。デイヴィッドは 不審の目で叔父を見る(3枚目の写真)。
  
  
  

デイヴィッドが真実を知ったと気付いたエベニーザは、「もう遅い。お前さんが、長い旅をしてきたことを忘れとった。疲れとるだろう」と言うと、今まで “もったいない” ので消しておいた蝋燭に、暖炉から火を点け、如何に優しそうに、「階段塔の部屋で寝るといい」と言い(1枚目の写真)、「一番上まで登ったら、右に曲がれ」と教える。「真っ暗だね。蝋燭渡してもらえない?」。「だめだ。これは高いんだ。勇敢な少年なら、暗闇を怖がるな」。そう言うと、手摺のない石の螺旋階段を登らせる。叔父がドアを閉めると、塔の中は真っ暗になるが、幸い、雷光が時々明かりを与えてくれる(2枚目の写真)。上の方まで行くと、コウモリが飛び交い、とても人が住めるような場所ではない。てっぺんに着いたデイヴィッドは右に曲がり、手で壁を触りながら一歩ずつ慎重に歩く。すると、足を乗せかけた石がそのまま落下していく。ちょうど雷が光ったので、その時の状態を真上から撮った映像が状況をよく示している(3枚目の写真、点線で囲まれた部分は デイヴィッドの足で外れた石材のあった場所、矢印は、その石材が落下していくところ)。デイヴィッドは必死に身を寄せたので、落下していく石材は見ていないが、大きな音がしたので 石が一番下まで落ちたことが分かる。その音を聞き、叔父は、してやったりと思う。デイヴィッドは、恐る恐る下を覗いてみる(4枚目の写真、雷光)。そして、全速で階段を駆け下りる。この場面の原作の挿絵を右に示す。
  
  
  
  

叔父を見つけたデイヴィッドは、「僕を殺す気で、あそこに行かせたな!」と糾弾する(1枚目の写真)。「殺すだと?」。「右に行けと言った」。「違う。左と言ったんだ」。「右と言った。何もなかった! 落ちるとこだった!」。「何を言い出すんだ? なぜ お前さんを殺さねばならん?」。「ずうずうしいな。止めろよ。父さんのことで嘘付いたくせに! 彼の方が年上だ。本にそう書いてあった!」(2枚目の写真)。それでも、否定する叔父から、デイヴィッドはキャンベル先生から預かって叔父に渡した手紙を 無理矢理奪い取り、読み上げる。「親愛なる弟エベニーザへ。この手紙の持ち主は息子のデイヴィット、バルフォーの屋敷の跡継ぎだ。彼を、私の遺言を預けてある弁護士の所に連れて行って欲しい」。デイヴィットは、「思った通りだ。ここは僕の物だ!」と叔父を怒鳴りつける(3枚目の写真)。そして、「これ以上の誤魔化しは通じないからな!」と言うと、置いてあったビールのコップを飲み干す。
  
  
  

次のシーンで、2人は、エディンバラの西にあるクイーンズフェリー(Queen’s Ferry)の港にいる。そこで、叔父は、過去の経緯を話す。「お前さんの父さんと、わしは、同じ女性に惚れた」。「僕の母さん、素敵だったんだよね?」。「とってもな。激しい論争の末、アレキサンダーが彼女を取り、わしが屋敷を取った」(1枚目の写真)〔この部分は、原作の最後に近い28章の記述と同じ〕。この打ち明け話の直後、叔父は、一隻の帆船の前にいた若いキャビン・ボーイに、「ホーシーズン船長は、中にいるか?」と訊く。「あっちで、ラムを飲んでるとこでさぁ」。それを聞いた叔父は、「ちょっと寄るとこがある。構わんだろ? ボルティモアからの煙草の件で用事があってな」と嘘を付き、その場を離れる。1人になったデイヴィットは、キャビン・ボーイと雑談を交わす。そのうち、船長と叔父が 口論をしながら店から出て来る。デイヴィットが、「どうかしたの、叔父さん?」と訊くと(2枚目の写真)、船長は、「こいつ〔叔父〕の顔も見たくない」とデイヴィットに向かって言う(3枚目の写真)。デイヴィットは、「それは残念ですが、もし何か手違いがあったのなら、僕がちゃんとしますよ。僕が、バルフォーの新しい領主ですから。もうすぐ」と、得意そうに言う。それを聞いた船長は、不必要なほど低姿勢な口調でデイヴィットのご機嫌を取り、「ずっとここで、あんたと話していたいもんですな」。「僕もです」。「カロナイナから持って来たものを あげたいが、何がいいかな? インディアンの羽根細工? 口まね鳥?」。その時、キャビン・ボーイが、”自分が食べていたサトウキビ” に 先ほどデイヴィットが興味を持ったことを思い出し、「サトウキビも食べたことないって」と、口を挟む。
  
  
  

それをいい口実に、船長は、船に上がってサトウキビを食べてみるよう勧める。叔父は、「だめだ、デイヴィット。弁護士との約束を忘れたのか?」と止める。この “偽りの反対” を受けて、デイヴィットは 「待ってて、まだ少し間があるから」と言い、船長と一緒に乗船用の通路を上がって行く(1枚目の写真)。デイヴィットは キャビン・ボーイと一緒に食料貯蔵室に行く。しばらく2人で話していると、甲板から船の出発を告げる言葉が聞こえてくる。そんなバカなとデイヴィットが岸壁側の窓を見ると、叔父が大喜びで杖を振っている。デイヴィットは、甲板まで走り出ると、「叔父さん、助けて!」と叫ぶが(2枚目の写真、矢印)、すべては 船長と叔父が用意した陰謀通りに進んでいるので、叔父は何も言わない。「助けて!」の叫びが、他の人の注意を引くといけないので、船長が後ろからデイヴィットの口を塞ぐ(3枚目の写真)〔原作では、帆船は埠頭に接岸しておらず、沖合に停泊しているので、挿絵では、ボートに向かって叫んでいる〕
  
  
  

クイーンズフェリーを出航した船は、スコットランドの東海岸に沿って北上する。その間、デイヴィットは船倉に放り込まれていた。マットレスなどないので、積み上げられたロープが寝床。体が強張って痛い。食べ物はおろか水も与えられない。船倉の木の上を滴り落ちる水を舐めてみると、塩水なので吐き出す。おまけに、足元にはネズミが徘徊している(1枚目の写真、矢印はネズミ)。体力の限界に達した時、ドアが開き、あくどい船長が入って来る。デイヴィットが、「水… お願い」と すがるように頼むと、船長は 「何も食べるな、飲むな。しゃべるな。甲板に出て、風に当れば一発でよくなる」と言う(2枚目の写真)。「どうか、ここから出して」。「わめいたり、争ったりしないな?」。「はい、船長。約束します」。「ならいい。これから お前はキャビン・ボーイだ」。船長は、デイヴィットに 「立て!」と命じるが、彼にはそんな元気はなく、床に崩れるように倒れる。船長は、襟首をつかんで引きずって行く。その後、船は、スコットランドの西海岸に沿って南下し、Invercraigと書かれた架空の港に到着する(3枚目の写真)〔映画では、デイヴィットはキャビン・ボーイにされるだけだが、原作には、「船はカロライナ(アメリカにあるイギリスの植民地)行きだった。当時、まだ白人男性は大農場で奴隷として売られていた。そしてそれこそ、邪悪な叔父が私に宣告した運命だった」と書かれている〕
  
  
  

そこに乗り込んできたのが、マッケンジー夫妻を名乗るアランとジニー。この船の目的地がよく分からないが、船長は、Invercraigからグラスゴーまでの乗船代として60ポンド〔108万円〕を要求する(1枚目の写真)。この、あまりにバカげた要求に対し、アランは、sixtyではなくsixteenだと主張し、16ポンド〔29万円〕を渡すが、それでも高過ぎると不満を漏らす〔船の目的地がグラスゴーでなく、寄り道だとすれば、約90キロの寄り道になる(Invercraigから湾口までは、寄り道にはならないので差し引く)〕。一方、船倉から出されたデイヴィットは、キャビン・ボーイとしてキッチンで働いていた(2枚目の写真)。そして、船長と一緒に食堂に座っていたアランとジニーの前に、金属のコップに入ったビールを2杯持って行く。当然、デイヴィットはアランを見るし、アランも、こんな所にいるはずのないデイヴィットを驚いて見る(3枚目の写真)。それを見た船長は、「あんたたちは、知り合いなのか?」と危惧する。アランは、さっそく、「いいや、見間違いだった」と否定し、デイヴィットも、「僕もです」と否定する。その結果は、大きく分かれる。アランは、デイヴィットを嘘つきだと思い込み、一方、船長は、2人の否定を信じず、裏に何かあると確信する〔原作では、帆船は、航行中にいきなりアランを乗せたボートと衝突する。アランは、巧みな身体能力を駆使して船首斜檣のロープにつかまって一命を取りとめる(右の挿絵)。そして、船長には、自分はジャコバイトだと言い、イギリス側に引き渡さないという条件で、ロッホ・リニ(映画のInvercraigと同じ辺り)まで連れて行けば60ポンド払うと言う。映画の60ポンドはここから来ているが、金額を提示したのは船長ではなくアラン本人。さらに、原作では、デイヴィットはまだアランに会っていない〕
  
  
  

船長は、先ほどの “凝視” の理由を調べようと、食堂にいたデイヴィットを呼ぶと、船長室に来るよう命じる(1枚目の写真)。そして、船長室で2人きりになると、船長は鞭を手にして、「デイヴィット、腹を割って話し合おうじゃないか。俺は、お前に親切だった。これからも、そうするつもりだ」(2枚目の写真)「だが、あいつが誰だが教えんと、首をちょんぎってやる。名前だ。吐け!」と脅す。そして、何も言わないデイヴィットの顔を殴って 床に転倒させる。船長は、デイヴィットを引っ張り起こし、もう一度殴ろうとするが、今度は、2度目なのでデイヴィットは巧く逃げ、テーブルを挟んで対峙する(3枚目の写真)。「口を割らせてやる!」。デイヴィットは、テーブルに置いてあった布をつかむと、照明替わりの3本の蝋燭灯に叩き付け、部屋を真っ暗にし、そのまま逃げ出す。
  
  
  

次のシーンでは、船室に一人残されたジニー〔アランは、甲板に出て行った〕が、壁越しに何かを聞いた後、急いでアランのいる甲板に向かう。そして、「すぐ 船を降りないと。奴ら、あなたが誰か知ってるわ」と訴える。「round house〔帆船の後甲板の後部船室〕で、船長が話してるの、聞こえたの」。アランは、「デイヴィットが話したに違いない」と、決め付ける。そして、ジニーには、船室から荷物を持って行きボートの所で待つように指示し、自分は船首に向かう。一方、デイヴィットも、船長から逃げて船首まで来て、アランと鉢合わせする。アランは、「このガラガラヘビ〔rattlesnake〕め!」と、デイヴィットを罵る。「信頼してたのに、俺の名前を話したな」(1枚目の写真)「そうでなければ、俺がアラン・ブレックだと、なぜ船長が知ってる?」。その会話を、船長の部下がこっそり聞き、船長にご注進。「マッケンジーって名乗ってた男、ブレックですぜ」。それを聞いた船長は、500ポンド手に入ると小躍り。全員を甲板に集めるよう指示する。そして、自分は剣を持ち、ジニーと2人でボートの用意をしているアランに近づいて行く。それに気付いたジニーが悲鳴を上げ、アランと船長の戦闘が始まる(2枚目の写真)。デイヴィットは、その様子を、逃げ込んだ樽の蓋を開けて見ている(3枚目の写真)〔原作では、状況は全く異なる。白人奴隷として売られたくなかったデイヴィットは、アランも船長に騙されて拘束されると知り、アランの部屋に行き、船長の企みを話す。それを聞いたアランは、デイヴィットを100%信じ、2人で組んで船長はじめ全員を敵にまわして戦うことに決める。それは、アランの部屋に閉じ籠れば、相手は一度に攻め入れないからだ。アランは圧倒的な攻撃力で4人を殺し(挿絵)、アランとデイヴィットは無傷。2人で船の支配権を奪う〕
  
  
  

剣術に劣る船長は、アランの猛攻に会って、甲板に追い落とされ、集まってきた部下をなぎ倒す。船長の指示で、今度は、さっきの密告男がアランと戦う。それを見たデイヴィットは樽から飛び出て、戦いをぼうっと見ていたジニーに、ボートの用意をするよう急かす。アランは、次々と船員を倒し、一方、デイヴィットはジニーをボートに乗せる。そして、邪魔に入ろうとしたキャビン・ボーイに “浮き(ブイ)” をぶつけて吹っ飛ばす。デイヴィットはボートに移ると、ジニーと2人で艇首と艇尾を吊っているロープを操作して海へと至急下ろす(1枚目の写真)。そして、そのまま海に着水すると(2枚目の写真)、大急ぎでロープを外し、デイヴィットがオールを漕いで帆船から離れる。そして、ジニーが 「アラン!」と大きな声で呼ぶ。それを聞いたアランは、戦闘を中断し、そのまま海に飛び込み、ボートに向かう(3枚目の写真)〔ここも、原作とは全く違う。船は岩礁が散在する海域に入り、マル(Mull)島の南西端にあるエンロッズ(Earraid)という小島(グラスゴーの西南西130キロ)の近くの岩礁に激突。その衝撃で、甲板にいたデイヴィットは振り落とされて海に落ちる(挿絵)〕
  
  
  

次のシーンでは、ボートは何とか岸に着き、辺りが明るくなっても、デイヴィットとジニーはくたびれて眠っている。アランは、ジニーを起こし、「早くここを発ち、グラスゴーに向かわないと」と話す。そこに、デイヴィットが起きてきて、「眠っちゃったみたい」と声をかけるが、アランは、「ここで 別れるぞ。君のでまかせにはうんざりした」と切って捨てるように言う。「僕、何も言ってないよ」。「船長に 俺がアラン・ブレックだと教え、危機に追い込んだ」。それを聞いたジニーは、「私が悪いの。“船長はあなたがアラン・ブレックだと知ってる” という作り話を お話ししたから」。「なぜだ?」。「ジェイミーのところに行きたくなかったから。お願い、あなたと一緒にいさせて」。それを聞いたアランは、デイヴィットの所に行き、「君を誤解していた」と謝った上で、「君じゃないとすれば、誰が俺の名を船長に言ったんだ?」と訊く(1枚目の写真)。「あんた自身だよ、この自惚れ屋! 甲板で僕をつかんだ時、自分の名前叫んだじゃないか」。「そうだ。俺だった」。ここで、ジニーが口を挟む。「デイヴィットがボートを降ろしてくれなかったら、あなた逃げられなかったのよ」。恥ずかしくなったアランは、「デイヴィット、何て言えばいいか。君は、俺の命を救ってくれた。なのに、俺は無礼で不当だった。心からお詫びする」と謝る。「構わないよ。会えて幸せだったから。尊敬してるよ」(2枚目の写真)。「俺も君を尊敬してるぞ、デイヴィット。俺たちは、これから友達だ。本物の、いつまでも助け合える友だ」(3枚目の写真)。
  
  
  

アランは、恩返しにデイヴィットと叔父の問題を解決してやろうと考える。そこで、エベニーザを弁護士の事務所まで招致する。エベニーザが中に入ると、そこには、アランとジニーが待っていた。弁護士は、この2人はマル島から来た人達だと紹介する。アランは、プライベートな話がしたいと申し出、弁護士と書記は別室に引き下がる。実は、これはトリックで、別室にはデイヴィットもいて、書記が、隣の部屋で交わされる会話をすべて速記するという手はずになっていた。最初に話し始めたのはジニー。「私が、小屋の近くの海岸で流木を集めていた時、溺れかけた少年を見つけました」。アラン:「デイヴィッド・バルフォーです」。「私たちは、その子を預かっていますが、あなたにちゃんとしていただきたくて参ったんです」。「私が、支援をするとでも?」。「恥を知りなさい。あなたの甥御さんなんですぞ」。「目撃者だから。コメントは差し控える」(1・2枚目の写真)。「戻って欲しくないのですか?」。「ぜんぜん」。「やっぱりな。で、ホーシーズンには、幾ら払ったんだね?」。「ホーシーズン?!」。「デイヴィッドの拉致に」。「たちの悪い嘘だ」。「かもしれんが、バルフォー屋敷の件で、ホーシーズンに金を払って拉致させたんだろ?」。「そんなことはない」。「よく聞け。率直に話そうじゃないか。黙っててやってもいいんだぞ」。「取引なんかせんぞ」。「ホーシーズンに200ポンド払ったじゃないか!」。「20ポンドだぞ!」(3枚目の写真)。これで、拉致依頼を自白したことになる。隣の部屋で聞いていた弁護士は、デイヴィットの肩を嬉しそうに叩き、書記から紙を受け取ると、ドアを開けてデイヴィットと一緒に笑顔で部屋に入って行く。「今日は、正義の日ですね、叔父さん」(4枚目の写真)。甥を見たエベニーザは仰天する。弁護士は、「全部ここに記録しましたよ」と紙を見せる。叔父が奪おうとすると、書記に渡し、「これで、財産は没収ですな」。エベニーザは激怒して事務所を出て行く〔原作では、この場面は、最終章の1つ前の第29章に書かれている。場所は弁護士の事務所ではなく、叔父の城。そこに、弁護士とアランとデイヴィットが行き、デイヴィットも顔を見せる。それでも、叔父は、追及されると、船長に20ポンドを渡したことを認める。弁護士は訴訟になると大金が要るとデイヴィットにアドバイスし、結局、叔父の年収の3分の2を受け取ることで合意する〕
  
  
  
  

映画の叔父は、原作より “悪人度” が高い。酒場でラム酒を飲んでいるロクデナシの船長の所まで行くと、「この裏切り者!」と罵る。何を裏切ったかというと、ここで初めて分かるのだが、叔父は、原作と同じように、デイヴィットをカロナイナの白人奴隷として売り飛ばす約束を船長としていた。だから、「その代わりに、どこかの島に連れて行った」と責める(1枚目の写真)〔デイヴィットがキャビン・ボーイにされたり、船内で反乱が起きたことは知らない〕。今度は、船長の方が、「そんなことはしとらん」と反駁する。「奴は、ここに戻って来とるぞ。変な友だちと一緒に」。それを聞いた船長は、「友だちは2人か?」と、急に熱心になる。「そいつは、アラン・ブレック、反逆者だ。500ポンドの賞金がかかっとる」。2人は賞金欲しさにさっそくイギリス軍に通報し、多くの兵士が弁護士事務所に急行する。アランは窓から逃げ出すが、すぐに捕まってしまう(2枚目の写真)。罪状は、コリン・ロイ・キャンベルの殺人、全くの人違いだ。それを喜んで見ている叔父に向かって、デイヴィットは、「ただでは済まないからな!」と文句を言うが、船長は、「500ポンドいただけるからな!」と自慢する(3枚目の写真)。デイヴィットは、「2人とも児童誘拐で訴えてよ」と弁護士に言い、「約束するよ、デイヴィット。2人とも吊るし首だ」と言ったので、2人はこそこそと逃げ出す〔この映画で不満なのは、このあと、2人がどうなったのか分からないこと〕
  
  
  

映画の場面は、エディンバラの法廷(1枚目の写真)〔アラン・ブレックではなく、史実としてジェームズ・ステュアートが裁判にかけられたのは、以前の地図でInvercraigと架空の地名で表示されていた場所の少しだけ北にあるインヴァレリー(Inveraray)城。アーガイル公爵の居城だ。しかし、映画では大勢の一般の聴衆が集まっていることから、人里離れた城ではなく、エディンバラで開催されたことになっている〕。裁判長であるアーガイル公爵は、判決を言い渡す。「アラン・ブレック。汝は15名の善良な陪審員によって審理され、殺人罪と反逆罪で有罪とみなされた。これから判決を言い渡す」。公爵ではなく、判決を言い渡す専属の官吏が公爵の横に立ち、「アラン・ブレック。汝を絞首刑に処す」と宣告する。公爵は、アランに反論がないか尋ねる。アランは、「何らかの罪で私を処刑することはできるだろうが、殺人罪では無実だ。反逆罪も理由にはならん。この国の王でもない人物に対し、反逆への罪など存在せん」と強く反論する(2枚目の写真)。それを聞いた観衆の中の氏族の代表(ゴードンス、マクドナルド、マクリーン?)から、賛同する声が上がり、それを制止しようとするイギリス兵との間で争いが起きる。裁判の終了後、公爵の部屋にスコットランド氏族の代表3人が訪れ、アラン・ブレックの絞首刑に強く反対する(3枚目の写真)。しかし、公爵は 「正義は なされねばならん」と言い、さらに、「我々は皆 平和を望んでおる。イングランドもしかり、私も、スコトッランドもだ。だが、この男が生きている限り 平和は訪れん。アラン・ブレックは吊るす」と、一歩も引かない。
  
  
  

裁判所の外の広場では、絞首台の設置が始まっていて、その周りには、刑に反対する大勢のスコットランド人が集まり、騒ぎがおきないようイギリス兵が見張っている。そこに、ジニーとデイヴィットが馬車で乗り付ける。デイヴィットは、泣き出しそうなジニーに、「気を強く。あきらめないで。考えがある」と言う。ジニーがアランと最後の別れを悲しんでいる間、デイヴィットは公爵邸の前に行き、警備兵に、「アーガイル公爵、ここにいるの?」と訊く(1枚目の写真)。「ここだが、どなた様かな?」。「デイヴィッド・バルフォー」。「とっとと消え失せろ」。そこで、デイヴィッドは裏口の調理室から忍び込み、七面鳥の丸焼きを料理中のコックの後ろを通って(2枚目の写真、矢印)、邸内に侵入。立派なドアがあったので、公爵の部屋だと思って近づくが、そこに大佐が入って行ったので椅子の影に隠れる。用が済んだ大佐が部屋を出て行くと、ドアの脇の甲冑の横に隠れていたデイヴィッドは姿を現す(3枚目の写真)。
  
  
  

そして、そのまま公爵の部屋に入って行く(1枚目の写真)。それに気付いた公爵が、「お前は誰だ?」と訊くと、デイヴィッドは、「お願いです、猊下、アランを自由にして下さい。首を吊らないで。彼は無実です。僕は『赤い狐』を殺した男を知ってます。見てました。ジェイミーという男です」と一気に話す(2枚目の写真)。「そのジェイミーとやらは、今どこにいる?」。「逃走して、船でカロライナに」。「それが何を意味するか、知っとるのか? 殺人者にもう手出しできんのだぞ。それを承知の上で ここに来たのか?」。「はい、猊下」。「なぜだ?」。「彼は反逆者だと知ってます。でも、アラン・ブレックは友だち、『いつまでも助け合える友』なんです。あなたが彼を許して下さるなら、僕は彼をスコットランドから出します。僕、最近、大きな遺産を相続しましたから、フランスでもアメリカでもどこでも送り出せます」。「あいつは、そこに留まると思うか?」。「それが彼にとって最後の道だからです。一人でない限り、人生は続きます」(3枚目の写真)。公爵はデイヴィッドに感心するが、決定は変えない。「変更はできん。だが、奴の首を吊ることが嬉しくなくなった。君が気に入ったからだ。家に帰れ。そして、友達の隣に吊るされないことを感謝するんだな」。「あまり嬉しくありません。もし、あなたが彼を知れば、彼と話せば… お2人はよく似ています」(4枚目の写真)。「似とるだと? どこが?!」。「スコットランドへの愛が」。この言葉が、公爵の心を動かす。
  
  
  
  

デイヴィッドの最後の言葉に考えさせられた公爵は、アランの牢獄を訪れる(1枚目の写真)。そして、「これは、慈愛の訪問ではない。刑を変えるつもりはない」と明言した上で、「私がここに来たのは、私が一生かかってもできなかったことを、君が短時間で成し遂げたからだ。君は、スコットランド人の心を捉えらた」と来訪の前提理由を口にする。そして、「来たるべき死… 避けがたい吊るし首… それを承知の上で、流血を止めるため、力を貸してもらえないだろうか? 群集の前に、私と一緒に来て、分散を呼び掛けて欲しい。平和裏に帰宅するよう話して欲しい。我々が等しく愛する人々のために」と訴える。アランは、「私も流血は好まん。だが、スコットランドは大いに間違ってる」と言い、イギリス兵から受ける扱いや、徴税吏のあくどさを指摘する。それに対し、公爵は、「改革が必要なことは確かだ。だが時間がかかる」と答える。そして、牢に朝日が射し込む。刑の執行の時間だ。公爵は 「私は約束する… 改革をもたらすと… だが、君は吊るされねばならん」と言う。アランは 「あらゆる死の中で、絞首台での死ほど嫌なものはない。だが、あなたが約束するのなら、喜んでロープに首を入れよう」と応じる。「承知した。我々は、世が違えば、良き友になっていたかもしれん。我々には共通点がある。2人ともスコットランドを愛しておる」とほほ笑む(2枚目の写真)。
  
  

絞首台の周りには、刑に反対するスコットランド人が大勢詰めかけ 口々に文句を言っている(1枚目の写真)〔建物は絵だが、大勢の群衆は、遠くの人も動いているので全員エキストラだろう〕。すると、広場を見下ろす建物のテラスに、公爵とアランが現われる。それを見た人々は、アランに手を振る。アランは両手を上げて人々を静かにさせ(2枚目の写真)、「スコットランド人、わが友よ。公爵は約束された。我々の税負担を軽減し、自らはスコットランドの最高法院長を止めると。その見返りとして、私は諸君に平和を要求する。暴動も反乱も流血もなし」。それを聞いた群集から、「だけど、あんたはどうなるんだ?」の声が上がる。公爵は、「アラン・ブレックは、何も求めなかった。だが、彼のお陰で、我々は初めて団結することができた。神も喜ばれておる。自らの命よりもスコットランドを愛する献身的な姿を目にし、私は、絞首刑から国外追放に減刑するのが当然の義務だと考える」と言い、アランを驚かせ、群衆からの喝采を浴びる。そして、2人は握手する(3枚目の写真)。デイヴィッドと弁護士は、それを聞いて大喜び(4枚目の写真)〔この結末は、観ていて嬉しい限り(ハリウッド的)だが、解説に書いたように、実際には、アランではなく、ジェームズ・ステュアートが縛り首にされた上、18ヶ月間 鎖とロープで縛られたまま野ざらしで骸骨になるまで見せしめで放置された〕
  
  
  
  

映画の最後。アランを乗せて アメリカに向かう帆船の前の埠頭には多くの群衆が集まっている。そして、アランと仲の良い3人の族長が船上で別れの言葉を交わす。3人が船から降りると、デイヴィッドがジニーに「寂しくない、 マッケンジーさん? 新婚旅行に “息子” を連れていかないなんて戸惑わない?」と訊く。「なぜ一緒に来ないの?」。アランも、「考え直して 一緒に来たらどうだ、デイヴィッド?」と勧める。「そうしたいけど、地所の管理をしないと」(1枚目の写真)。「地所に携わるには若過ぎないか?」。ここで弁護士が、「いいえ、ブレックさん、いろいろと相談して進めませんと」と割り込み、デイヴィッドは、「結局、僕はバルフォーの跡継ぎだから、ここに留まって、良きスコットランド人にならないと」と言う。「そうだな、デイヴィッド。君の居場所はここだ。スコットランド万歳!」(2枚目の写真)。デイヴィッドは2人に別れを告げ、船から下りようとするが、弁護士から身分に相応しく姿勢を正すよう指示される。そして、最後に振り返ると、背筋を伸ばして2人の去った方をじっと見つめ(3枚目の写真)、下船する。
  
  
  

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